牛舎を設計する際に、その建物のデザインだけに集中してしまった結果、それが他と建物との関連性に乏しい独立したユニットになっていることがしばしば見受けられます。その建物の10年から15年先の未来までしか視野にいれておらず、さらにその先まで見据えた計画が練られていない事例があまりにも多すぎます。農場の敷地内の建物は、機能的に常にお互い関係しあっています。デザインを考える際は、建物内の動線だけでなく、建物外である建物間の動線も必ず考慮しなければいけません。建物同士の関連性と、将来の牧場の拡張性を考慮した敷地利用計画がfarmstead plan(以下、将来設計)と呼ばれます。この号では、この将来設計についてお伝えしていきたいと思います。

“将来設計”、それは牧場の未来を決める“道しるべ” 

まっさらな敷地で、牛舎をゼロから建てる場合、農場は事業計画にそって、敷地内に自由に建物を配置することができます。しかし、多くの酪農家は、白紙の状態からスタートするわけではなく、既存の建物を考慮しながら新しい建物を建てなければいけません。明確な将来像のないまま、既存牛舎の位置にとらわれながら拡張した結果、計画性がなく、効率も悪い、「exploded 爆発した=ぐちゃぐちゃな」建物配置となることが非常に多くみられます。50年前の祖父の世代で始まった酪農は、時代とともに発展、変化してきたため、その当時と今では、構想が異なるものになっています。各世代は、その時々の新しい技術に合わせて牛群を変化、成長させてきました。そして現在の世代は、自動搾乳システムを含む現在の技術に適応した酪農場の拡大や近代化を望んでいるため、それを視野にいれた”将来設計”を構築する必要があります。

本当にそこに建てて大丈夫??

新しい牛舎や糞尿貯蔵庫は、次に何が起こるかを考えずに設置されることが非常に多くあります。多くの場合、酪農家は「これ以上牛は増やさない」と言って新しい牛舎を増設しますが、10年後には、次の世代が牧場を拡張して発展させたいと考えるかもしれません。そうなった場合、現在の牛舎や糞尿貯蔵庫の場所が適切ではないと、簡単に拡張できなかったり、新しい土地で新たに始めなければならなかったりして、次の世代の発展の妨げとなります。次の世代の発展を妨げないためにも、新しい施設を建てる場合は、「本当にそこに建てて大丈夫?」とよく考えてください。

自分の管理にあった“将来設計”を

 

このような事態を防ぐためには、優れた将来設計が必要です。それは、酪農家が、希望する農場の管理を実現するための、重要なツールです。農場の管理の中には、様々な項目が含まれており、主なものとしては建物・搾乳・飼料製造・廃棄物の管理などがあげれらます。また、最近ではその中にバイオガス生産、牛がパドックなどの屋外へ出れるエリアの確保(動物愛護や規制を考慮して)といったものなども含まれることがあります。良い将来設計のためには、明確な“農場の管理”を決定することが重要になります。

 

“ビッグ”に考えよう!

 

酪農場の将来設計を作成するには、時間と労力がかかります。オーナーや農場長などの経営陣と、信頼できるコンサルタントとのチームで行うことがベストです。みんなでテーブルを囲み、全員がそれぞれの立場から意見を出し合うことで、機能的かつ農場の希望する管理にあった将来設計を生み出すことができます。良い将来設計の構築のためには、将来を見通す力、様々な選択肢を検討する柔軟性が重要ですが、最重要なのは小さな目標にとどまらず、“ビッグ”な目標を掲げることです。20~30年後、私たちの農場はどうなっているのか?牛の頭数はどのように増えていくのか?将来、新しい技術を取り入れる必要が出てくるのか?みんなで計画を立てる際は、思いきった増頭や革新的な技術を取り入れることを想定した“ビッグ”な計画を立てましょう。

 

農場の拡張計画を書面で示す “将来設計”

 

将来設計とは、敷地の境界線、既存の建物の位置、将来の改修について説明した一連の図面や書類のことを示します。将来設計を作成することで、牛舎、糞尿貯蔵庫、飼料貯蔵庫の新規建設に必要なスペースなどを把握することができます。また、スペース、敷地境界線、道路、地形、排水パターンなど、その敷地の持つ物理的な限界を明確に把握することができます。将来設計は、その敷地内ででき得る最大規模の酪農運営と、現在および次の世代のための将来の方向性を決定するのに役立ちます。

将来設計は、以下のような原則に従って決定されます。

  1. 農場の希望する管理(群分け、給餌方法、除糞方法など)の実現
  2. 農場の資源(敷地・すでにある建物)の有効活用と最適化
  3. 安全な労働環境の提供と、最適な労働効率の実現
  4. 牛、飼料、糞尿、人の流れの最適化
  5. 自然環境への配慮
  6. 新しい技術への適応

 

次世代につながる計画

 

将来設計では、次の搾乳牛舎、糞尿貯蔵庫、育成牛舎をどこに配置するか明確にして決めることができます。牛舎、搾乳場、飼料調整・貯蔵庫、糞尿処理システムは、効率的な酪農システムを構築するために、互いに補完し合うように配置され、大きさが決められます。将来設計を作成することは、今の世代が次のステップを計画するのに役立つだけでなく、将来の世代が農場を引き継いだ時に、農場を発展させ続けることを可能にします。今あなたが決定したことが、将来のさらなる変化を可能にしたり、将来の発展を妨げたりすることもあるのです。

 

目的地を示すロードマップ

 

農場の将来設計は、時間の経過とともに変化していくものですし、変えていくことも可能です。10年前に作成された“将来設計”は、その間の酪農ビジネスの変化により、現在作成すると異なるものになるでしょう。計画は進化し、各世代のニーズと経営計画に従って継続的に変化します。

将来設計は、移動するための地図と同じだと考えてください。ゴールは決まっていますが、長い道のりは細かく区切られており、いわば通過点のようなものです。それぞれの通過点に到達するごとに、ゴールが同じかどうかを確認し、それに基づいて旅行計画を更新することができます。将来設計は、最も効率的なルートを示すロードマップのように機能します。優れた将来設計であれば、敷地利用の最適化、コスト効率の良い拡張、建物の取り壊しの回避で収益は回収できます。

 

 

4dBarnでは農場の将来設計のお手伝いもしています。これまでに様々な国でいくつもの将来設計を行ってきました。既存の農場に何かを建設する場合でも、まっさらな土地にゼロから建設する場合でも、将来設計の作成は農場にとって有益です。都市には将来を見据えた都市開発(街づくり)計画が必ずあるように、酪農場でも“将来設計”をつくっていきましょう!
また、牛舎の更新に当たって新しい知見を身に着けたい方にはeアカデミーの教材がお勧めです。


デイビッド・キャメル(名誉教授)、ヨーニ・ピトカランタ(建築士)

この記事は、Dairy Japan 2022年3月号に掲載されたものです

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David W. Kammel, Professor Emeritus, Jouni Pitkaranta MSc Architecture

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