夏の農場では牛の健康、福祉、そして乳量に大きな影響を与える「暑熱ストレス」が大きな課題です。暑熱ストレスを防ぐための最も効果的な方法のひとつは、冷却ファンによる空気循環の確保です。しかし、ファンの導入コストがまかなえなかったり、設置が間に合わなかった場合、暑熱ストレスに太刀打ちする方法は他にないのでしょうか?

この記事では、高額な投資や複雑な設備の設置をなるべくせずに、暑熱ストレスの影響を最小限に抑えるための9つの実践的な方法について考えていきます。


1. 牛の様子を観察し、異常には早めに対処する

日頃から牛をよく観察していると思いますが、暑熱ストレスのサインは特に呼吸数に現れます。1分間の呼吸数が60〜75回に達したらすでに暑熱ストレスの可能性が高く、この時、他の症状はまだ現れていないこともあります。
暑熱ストレスに陥ると数日後にはタンクの乳量に変化が現れますが、呼吸数に着目していればより早期の対処ができます。立ち時間が長い、日陰や水飲み場へ集まっているなどの行動の変化も、牛が自分の体温調整だけでは対処できない状態を表しています。外気温が20℃を超える前から冷却対策を始めましょう。

2. 牛舎の換気を最大化する

古い牛舎や低い天井の牛舎では、夏場の換気が不十分になりがちです。ファンの追加や側壁を開放するなどして空気の流れを確保しましょう。空気が牛舎全体を均一に流れるクロスベンチレーションが最大化されると、温度だけでなく湿気や有害ガスも除去でき、空気の質も改善します。

3. ファンを清掃する

ファンが設置されている場合、定期的に清掃することが稼働効率の維持に不可欠です。ほこりや汚れで空気の流れが最大30%も減少することがあります。夏本番前にファンの羽根やカバー、吸気口を掃除し、モーターやベルトの点検も忘れずに。これによりファン自体の電力消費も抑えられます。

4. 飲み水を十分与える

暑い時期、牛の水分摂取量は通常の2倍にもなります。
すべての給水器が正常に機能し、複数の牛が同時に飲んでも十分な水量がすぐに補充されるか確認しましょう。水は毎日入れ替え、水槽も清掃して衛生的に保ちます。
水の補給に不足がある場合、夏季限定で簡易的な水槽の増設をすることも有効です。写真は、大きなパイプを切断して臨時で設置した水槽です。

5. 水で冷却する

猛暑時には、牛の背中を水で濡らして冷やす方法もあります。毛の奥の皮膚部分まで水で濡れるようにすることで、蒸発時の気化熱を利用して体温を効果的に下げられます。ファンとの併用で冷却効果が上がることが示されています。

6. 牛舎内の頭数密度を下げる

牛自身からも熱は発生するため、密度が高いと牛舎内の温度も上昇します。
換気が不十分な牛舎では、乾乳牛を放牧させて牛舎内の頭数を減らす方法も検討しましょう。牛を外に出す際には必ず日陰を確保してください。外に出た牛のぶんだけスペースに余裕を持たせることで、牛舎内に残す搾乳牛に快適な環境を提供できます。また、密度が低い方が牛舎内の温度も速く下がります。

7. 給餌時間を変更する

暑い時期は牛の摂食・飲水行動も変化します。昼間よりもいくらか気温が下がった夜間などに新鮮な飼料を与えることで、飼料自体の温度が上がるのを防ぎ、食べやすい時間帯の牛の嗜好性も高まります。
鮮度を保つために暑い時期は可能であれば複数回に分けて給餌することを検討し、必要に応じて保存料の使用を栄養士に相談しましょう。

8. 牛に追加のストレスを与えない

暑熱ストレスがかかる時期は、牛にとってストレスになるような作業は避けましょう。牛の移動や餌・水などに対する競争が該当します。
また、削蹄や妊娠鑑定など牛に対する処置を伴う作業はできる限り涼しい時間帯を選びましょう。ワクチン接種も暑い時期を避けるのが理想です。パーラーの待機場で過ごす時間を最小限に抑えるなどの工夫もよいかもしれません。

9. 日陰を確保する

牛舎や放牧地への直射日光の照射を少なくすることで、周囲の温度を下げることができます。外でも餌場や休息スペースに日陰を確保し、少しでも暑熱ストレスを予防しましょう。


最後に

暑熱対策は搾乳牛だけでなく、どのステージの牛にとっても必要なものです。暑熱ストレスは一過性のものではなく、育成牛では成長に悪影響を及ぼし、乾乳牛では胎児の発育や将来的な乳量に影響します。

このため、暑熱ストレスを抑制することは、短期的な乳量の維持だけでなく、長期的に牛群全体の健康度と繁殖成績の向上につながります。
正しい予防法で暑熱ストレスの悪影響を最小限に抑え、牛たちの快適な生活環境を守りましょう!

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